肝臓破裂が認められた猫の全身性アミロイド症の1例

○舛方祐子、築澤寿栄、平山健太郎、高瀬奈美、猪子景子、安田和雄

安田動物病院・兵庫県

1.はじめに

全身性アミロイド症は、アミロイド線維が全身の臓器に沈着し、様々な障害を生じる疾患である。猫では肝臓破裂による死亡例が近年報告されているが、確定診断には病理組織検査が必要であるため、生前の診断率は低い。今回、我々は肝臓破裂を起こした猫をアミロイド症と診断し、アミロイド線維の可溶化が期待されているDMSOによる治療を行ったので報告する。

2.材料および方法

5歳齢、雌、体重3kgの雑種猫で、突然の嘔吐と虚脱を主訴に来院した。血液検査では重度の貧血(Ht 13.1%)と黄疸が認められた。また、血液化学検査では肝酵素値(ALT>1000IU/L)とNH3(431μg/dL)およびBUN(63.4mg/dL)とCre(3.9 mg/dL)の上昇が認められた。血清中SAA値は正常範囲(<2.5μg/mL)であった。

3.成 績

第1病日から輸血を行ったが、第3病日には貧血(Ht7.2%)が進行した。腹部超音波検査で液体の貯留を認め、穿刺により血様腹水が得られたため、試験開腹を実施した。腹腔内には大量の血液が貯留しており、肝臓被膜下に大量の血餅が付着していた。肝臓実質は脆弱で易出血性を呈していた。肝臓の出血部位にスポンゼル Ⓡ を圧着し、一部を生検した。術後、貧血は徐々に改善し、一般状態の改善も認められたことからビタミンK1(5.0mg/kg、SID)の経口投与を続けながら退院した。病理組織学的検査にて肝アミロイド症の診断を得たことから、第17病日よりDMSO(10倍希釈液3ml、EOD)の経口投与を開始し、第83病日まで継続した。第145病日には一般状態良好であったことから、肝臓とそれ以外の臓器のアミロイド沈着の程度を再評価するため、生検を行った。病理組織検査にて肝臓の他、膵臓、腎臓にもアミロイド沈着が認められた。第162病日に再度肝臓破裂を起こし、開腹手術にて止血処置を行ったが死亡した。

4.結 論

猫において急性の腹腔内出血、肝酵素値の上昇および慢性腎不全の臨床病理学的所見が認められる場合、全身性アミロイド症は重要な鑑別診断の1つと考えられる。また、本症例ではDMSO投与後の肝生検所見でアミロイド沈着は減少傾向が窺われたものの、病勢や予後を改善する効果は認められなかった。本症に対するDMSOの有効性に関しては、更に検討が必要であると考えられる。